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・ボラティリティとは何か
先物やFXなどスポット・ポジション損益は「ボラティリティ」の変化に影響を受けませんが、オプション・ポジションの損益は「ボラティリティ」の変化から多大な影響を受けます。よって「ボラティリティ」の理解を曖昧にしたままオプション取引をすることはできません。
「ボラティリティ」は、マーケットで最も重要な指標の一つであるにも関わらず、最も理解されていない指標の一つでもあります。例えば「ボラティリティ10%」といった場合、これは単に原資産価格が10%動いたということを表しているのではありません。
ところが「ボラティリティ」のことを「ボラ」と略して話すほど(オプション・トレーダーは「ボル」と略すことが多い)マーケットに精通している者でも、「ボラティリティとは何か」と問われると、多くははっきりと説明することができません。それほどまで曖昧にされている指標なのです。
・ボラティリティ10%とは
「ボラティリティ」とは価格の変動率のことで、一般的には年率で表されます。「ボラティリティ10%」といった場合、これは1年間のマーケットの変動が68.26%の確率で現在の価格より上下にそれぞれ10%の範囲内で推移することを表しており、また95.44%の確率で倍の20%の範囲内で推移することを表しています。
「ボラティリティ」に価格の方向性は内包されていません。具体的には「現在のドル円レートが100円でボラティリティが10%」といった場合、1年後のレートは68.26%の確率で上下にそれぞれ10%以内の90円から110円の範囲に収まり、95.44%の確率で上下にそれぞれ20%以内の80円から120円の範囲に収まる、ということを表しています。
・標準偏差
68.26%や95.44%という値はどこから出てきたのでしょうか。これは言うまでもなく標準偏差(σ = シグマ)となります。
±1σ = 68.26%
±2σ = 95.44%
±3σ = 99.74%
・ベルカーブ(正規分布)、この壮大な知的詐欺
マーケットでは100年に1度のはずの危機が100年間に何度も起きます。これはマーケットの価格変動は予測不能という前提で、便器便宜的に価格変動は正規分布(またはガウス分布)に従うと仮定していることが原因です。
これは明らかに誤った仮定です。正規分布は平均値に対して左右対称ですが、マーケットの価格変動の分布は当然に対称ではありませんし、大規模な下落が起きる頻度は正規分布で示す値よりも多いものです。仮定が誤っているので100年に1度のはずの危機が100年間に何度も起きることになります。
1998年のLTCM破たん以降、マーケット環境に正規分布を当てはめる仮定に大いなる疑問符が付くことは、現在となっては広く周知の事実です。よってトレーダーはそのことに留意し「正規分布を仮定とした数字には用心」していかなければなりません。正規分布の便利さ故に、特にオプション取引ではこの誤った仮定が多用されています。
オプション取引の「必読書」として挙げた「ブラックスワン(上/下)-不確実性とリスクの本質(ナシーム・ニコラス・タレブ)」で、著者は正規分布をマーケット環境へ適応する危険性に対し「ベル・カーブ(正規分布)、この壮大な知的詐欺」「まやかしの不確実性」と激しい論調で言及しています。
・ヒストリカルボラティリティ(HV)とインプライドボラティリティ(IV)
ボラティリティには大きく分けて「ヒストリカル・ボラティリティ(HV)」と「インプライド・ボラティリティ(IV)」があります。オプション取引で言うところのボラティリティとは後者「インプライド・ボラティリティ(IV)」のことを指しています。
「ヒストリカル・ボラティリティ(HV)」はその名の通りヒストリカルで単純に価格変動が大きければ高くなり、価格変動が小さければ低くなります。しかし「インプライド・ボラティリティ(IV)」は、これとは全く異なる次元のものです。
・IV(インプライドボラティリティ)
HV同様に原資産価格の変動が起きなければIVも変動しないと誤解されがちですが、これは大きな誤りです。
マーケットに大きな変動の懸念が出てくると、オプションは買われプレミアムは高騰します。また当分マーケットは静かであろうと市場が考えているならば、オプションは売られプレミアムは安くなります。
IVはこのオプション・プレミアムから逆算されたボラティリティです。つまりマーケット環境や市場の思惑が内包された(インプライドされた)ボラティリティということになります。
・HV低下、IV上昇
一般的にHVとIVどちらかが先行して上昇すると他方も上昇し、低下すれば他方も低下します。
しかしどちらかが低下しているにも関わらず、他方が上昇するような特異なケースがあります。感覚的には理解しずらいかもしれません。
例えば重要な指標がアナウンスされることが既知の情報である場合、多くの参加者はポジション整理を行い、指標発表の時を待ちます。指標発表のアナウンスと同時に原資産価格が大きく変動する可能性が高いと誰もが考えているので、今はポジション整理をして(思惑のポジションを取って)その時まで静かに待っていよう、ということです。
指標発表前に原資産価格が大きく動くことは滅多にありません。このとき原資産価格の変動は停止状態にあるので当然にHVは低下状態にあります。しかし指標発表後に上下どちらかはわからないが大きく動くであろうという思惑や、その時の市場のセンチメントからオプションの需要が高まり、原資産価格は動いていないにも関わらずIVは上昇します。
・HV上昇、IV低下
逆にHVは上昇するがIVが低下するケースは、指標発表後に起こります。
指標発表により原資産価格が激しく変動しているので、当然にHVは上昇します。しかし指標発表を通過したことにより市場心理は警戒が解かれオプションは売られます。このことでIVは低下します。
このような現象を応用することで以下のレポートのようにオプション取引の「イベントプレイ」を実行することができます。
・スマイルカーブ
前述のようにIVはオプション価格から逆算されます。オプション価格は権利行使価格(ストライク)ごとに違うので、IVもストライクごとに違います。
例えばATMは買われているがOTMは売られている、プットは売られているがコールは買われている、といったように、オプション価格は常にストライク間に価格の歪みが生じています。よってIVにも同等の歪みが生じます。
このようなIVの歪みを視覚的にグラフ化したものが「スマイルカーブ」です。「スマイルカーブ」はオプション取引を行っていく上で最重要ツールとなります。控えめに言っても「スマイルカーブ」なしにオプション取引を行うことなど、目隠しをして車を運転するのと同義であり大罪です。
オプション取引に手を出すのであれば、必ず「スマイルカーブ」を確認できる環境を整えておきましょう。
「スマイルカーブ」は「スマイルキャッチャー」に実装されています。エクセルで動きます。
こちらのYouTubeのLIVE配信では簡易的に「スマイルカーブ」を確認できます。外出時などにご活用ください。
・ベガとは
ようやく本題の「ベガ」までたどり着きました。
ベガとは、IVが1%変動した場合にオプション価格がいくら変動するかを表しているリスク指標です。ブラック・ショールズ方程式をボラティリティで偏微分して求められます。
ベガ値はATMで最大値となり、逆にITMやOTMへ離れるほど小さくなります。また残存日数が長いオプションほどベガ値は大きく、逆に残存日数が短いオプションほどベガ値は小さくなります。
オプション買いのベガ値はプラス値、すなわち「ポジティブ・ベガ(ベガ・プラス)」であり、ボラティリティの上昇はポジション損益に対して有利に、ボラティリティの下落は不利に作用します。
オプション売りのベガ値はマイナス値、すなわち「ネガティブ・ベガ(ベガ・マイナス)」であり、ボラティリティの上昇はポジション損益に対して不利に、ボラティリティの下落は有利に作用します。
・ボラティリティ・トレード
以上のベガ特性からオプション取引は、同限月・異権利行使価格、または異限月・同権利行使価格のオプションのうち、ボラティリティが低いオプションを買い、ボラティリティが高いオプションを売るという裁定取引の機会が生まれます。
また「デルタ」の項では「デルタ調整(デルタ・ヘッジ」のことを書きました。「デルタ調整」により価格変動のリスクを消し、「ボラティリティを取る(抜く)」という戦略が可能になります。このような「ボラティリティ・トレード」はオプション取引に於ける基本戦略の一つとなっています。
オプション取引には多くの手法や戦略がありますが、本レポートで行っている取引の多くはこの「ボラティリティ・トレード」になります。「メシの種はボラティリティ」という訳です。
今後もレポートで「ベガ」に言及していくことになると思いますので、実践的な内容はここでは割愛します。またベガの損益の計算方法も過去レポートで何度も書いてきているので割愛します。
「Vega 55.49 JPY × IV +0.54 = +29.96 JPY」、これがベガ益。
Lv0067【プロテクティブ・コールはテストをあえて適当に流す隠れ優等生】 +63,000 JPY"みんないつも僕がどんなコンピュターモデルを駆使しているか知りたがるけど、そんなものは株……
・主要グリークスの振り返り
ここまで基本的な4つのグリークスを見てきました。本レポートでは「理論と実践の違い」という言い回しが頻繁に登場しますが、生身の人間が現実のマーケットでオプション取引で利益を上げるには、教科書的な理論を知った上で肌感覚でも習得することが重要です。
わたしたちにとって「理論と実践の違い」にこそ大きな優位性があり、「スマイルキャッチャー」などを利用して、何百回も何千回も繰り返し売買シミュレーションを行っていくのが良いと思います。それが肌感覚で習得する一番の近道ではないでしょうか。
変化率とは
デルタとは
ガンマとは
セータとは
(参考レポート:【動画】ざっくり解説シリーズ)