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・ガンマ(Gamma)とは
ガンマは、原資産価格が1単位変動したときのデルタの変化率を表したものです。原資産価格の変動に対するデルタ値の変化速度を表していることから、デルタ・ヘッジ(デルタ調整)によりデルタ・ニュートラルを維持しようとする際に、あとどのくらいのヘッジを追加しなければならないのかを示しています。
変化率とは
デルタとは
ガンマはポジションの持つデルタがどのくらいの速度で、よりロングに変化していくのか、よりショートに変化していくのかを計る、非常に重要なリスク指標となります。
ガンマ値が大きいということは、原資産価格の変動に対してデルタの変動も大きく、オプション・プレミアムの変化に大きな影響を与えます。逆にガンマが小さいということは、原資産価格の変動に対してデルタの変動は小さく、オプション・プレミアムはあまり影響を受けません。
・ガンマが最大値を取るのは期近のATM
ガンマはブラック・ショールズ方程式を原資産価格で2回偏微分して求められ、ATMで最大値を取り、ATMからITMやOTMへ離れるほど小さくなります。また期近のオプションのガンマ値は、期先の同じ権利行使価格(ストライク)のオプションのガンマ値よりも大きく、オプションの残存期間が長くなるほどガンマ値は小さくなります。
つまり最大のガンマ値を持っているオプションは、期近のATMということになります。
・ネガティブ・ガンマ
オプションを売るということは、ネガティブ・ガンマのポジションを持つということです。オプション売りで大怪我をするトレーダーは、多くの場合このガンマ値を無視しているか甘く見積もっています。
例えば、OTMのオプションを売っていたとします。その後、原資産価格が権利行使価格から離れていき、オプションはよりOTMとなりました。この場合のガンマ値は小さくなっていきますので問題ありません。しかし逆に、売ったオプションの権利行使価格に原資産価格が近づいてくるときに厄介な問題が起こります。
・ガンマ効果
その場合、売ったオプションはよりATMに近づいていきますので、ガンマ値は「加速的に」大きくなります。そして原資産価格と権利行使価格がピタリと一致したとき、ガンマ値は最大値となります。ガンマ値の増加は、デルタ値の増加をより加速させ、結果オプション・プレミアムに劇的な変化をもたらします。これを「ガンマ効果」といいます。
前述のようにガンマ値が最大となるのは満期直前、かつ原資産価格がオプションの権利行使価格を通過するときです。満期に向けて原資産価格がオプションの権利行使価格に収斂していき、SQ後に一方向に走り出すというマーケットの現象も、この「ガンマ効果」によるものといえます。
ガンマ値の増加は、ネガティブ・ガンマのポジションに不利に作用し、逆にポジティブ・ガンマとなるオプション買いのポジションには有利に作用します。
ここでのポイントは「加速的に」というところです。オプションが持つ「ガンマ曲線」は教科書にも掲載されているので必ず確認しておいた方が良いでしょう。「ガンマを無視するものはいつか必ず破滅する」と断言できます。
・ベテランは売りも買いもやる
ガンマ値の増加が、ネガティブ・ガンマのポジションに対して不利に作用するというのなら、そもそもオプション売りなど誰がやるものか、と思えます。相場は予期せぬ動きをするものだし、ネガティブ・ガンマなどという危険なリスクを背負ったポジションは、できる限り避けて通るのが投資の基本ではないのか、と。
しかしこのような解釈は、「オプションは買いのみで勝負するもの。売りは破滅の道」などと歪んだ誤解を生む元となっています。ネガティブ・ガンマのポジションは原資産価格の変動に対して不利である反面、別の側面から非常に有利な特性を備えています。その特性は逆にオプション買いにとっては非常に不利なものとなります。その特性とは「セータ」のことなのですが、「セータ」に関しての詳細は次号で書きます。
ベテランのオプション・トレーダーで「オプション買いのみ」しかやらないトレーダーをわたしは知りません。「ロング・スプレッドを組むことの方が多い」というベテラントレーダーはいますが、「オプション買いのみ」しかやらないトレーダーはそもそも長期的に生き残っていないからだと思います。
やっぱり「オプション特性を巧みに利用してこそ」
Ep0007【日経平均先物を買うかコールを買うかプットを売るか-オプション取引】"これはとんでもない間違いで、ラスベガスのギャンブラーならそんな間違いを犯しません――生……
・ベテランは興味がない満期直前のOTM裸売り
OTMのオプションを満期直前に裸で売り(ネイキッド・ショート)、満期に持ち込んで逃げ切るというWeeklyオプションで横行しているような雑な手法には、ベテランは一切手を出しません。
なぜなら満期直前のOTMのオプションはプレミアムも安く、前述のように「ガンマ効果」をよく知るベテランにとってはどう見積もっても「満期直前のOTM裸売り」はリスクに見合っていないと考えるからです。
はっきり言ってしまえば、そのようなガンマを無視した陳腐でチープかつハイリスクなことをわざわざせずとも、もっと優位性のある別のオプション・ストラテジーを知っていて使いこなせるので興味がない、と言ったところでしょう。何よりもそのような手筋を続けていては、いつか必ず「ブラックスワン」に破滅させられることをベテランはよく知っています。
・結局
ガンマを無視したり甘く見ていると大怪我をする、しかしガンマを過剰に気にしてオプションを売れないトレーダーもまた生き残れない。これではオプション取引とはいかがしたものかと悩んでしまいます。
結局どのみちウマい話などはないのですから、グリークスを睨みながらリスクとリターンを熟考しトレーダー自身で折り合いをつけていくしかありません。
(次号へつづく)
(参考レポート:【動画】ざっくり解説シリーズ)