・ラッセル・セイジ
1800年代後半に活躍した米国の投機家ラッセル・セイジは、「オプション取引の高祖」と言われています。セイジはオプション取引に於いて歴史に残る偉大な取引手法を開発し、その応用技術は現在でも多くのトレーダーに活用されています。
当時、鉄道株を中心に投機を行っていたセイジは、「株価」と「オプション価格」(と金利)に一定の裁定関係が成り立つことを発見しました。「コンバージョン」と「リバーサル」(リバース・コンバージョン)です。
この発見により、オプションの値付けやコール・プット間のポジション変換が容易にできるようになり、何よりも多くのアービトラージャーがオプション市場に参入するようになり、当時は閑散としていたオプション市場で多大な流動性を生み出すことに貢献しました。
・コンバージョンとリバーサル
コンバージョン = 原資産(または先物)買い + コール売り + プット買い
リバーサル = 原資産(または先物)売り + コール買い + プット売り
※ただしコールとプットは同一の限月かつ、同一の権利行使価格
「コンバージョン」と「リバーサル」のポジション構成は上記のようになります。
そして「コンバージョン」の優位性は以下の公式により成立します。
0(ゼロ) < ( コール価格 - プット価格 ) - ( 原資産または先物価格 - 権利行使価格 )
原資産または先物市場とオプション市場でこの公式が成立する場合、トレーダーは「コンバージョン」を仕掛けることを考えるべきです。
なぜならこの合成ポジションは、上記の式の利益分を確保したままデルタや他のグリークスを打ち消している裁定ポジションだからです。「リバーサル」の場合は、上記コンバージョンの逆となります。
ぜひ「スマイルキャッチャー」で「コンバージョン」と「リバーサル」のポジションを組んでみてください。グリークスはフル・フラットとなり、それは満期まで変動しません。
同じ理屈により「プット・コール・パリティのエスケープ」も説明することができます。
・アルゴリズムが瞬時に取っていく
上記のように「コンバージョン」や「リバーサル」を実行することで、利益が生まれる仕組みは単純です。現在もしマーケットにこのような裁定の機会が生じれば、瞬時にアルゴリズムが取っていきます。またこの場合、注文スプレッドや手数料で消えてしまうほど利益は小さく、現実に個人投資家が実行することは難しいでしょう。
逆に言えば、コンピューター取引による強力な裁定が働いていることで、安定したオプション市場が供給されていると言えるでしょう。
・「フルヘッジ・ベア・シンセティック」と「フルヘッジ・ブル・シンセティック」
さて、上記の「コンバージョン」と「リバーサル」のポジション構成ですが、コールとプットの権利行使価格をOTMにずらすと、それぞれ「フルヘッジ・ベア・シンセティック」「フルヘッジ・ブル・シンセティック」となります。
シンセティック系は安定感があるスプレッドです。レンジ相場での「スマイルカーブの変化」から、手堅く取りたいときに活用される有用なスプレッドです。
レンジ下限では「下げのP剥げC盛り」してきたスマイルカーブを逆張りし、今度は「上げのP盛りC剥げ」となることを期待して「フルヘッジ・ベア・シンセティック」を組みます。
レンジの上限では「上げのP盛りC剥げ」してきたスマイルカーブを逆張りし、今度は「下げのP剥げC盛り」となることを期待して「フルヘッジ・ブル・シンセティック」を組みます。
これが「フルヘッジ・ベア・シンセティック」と「フルヘッジ・ブル・シンセティック」の基本的な考え方です。「スライド効果」、スマイルカーブのシーソーゲームです。
実践的にはそのときの地合や相場観、トレーダーの好みでグリークスにウエイトを付けて組まれることが多く、必ずしもコール・プットがデルタ対称であったり、ポジションサイズが1:1である必要はありません。
「フルヘッジ・ベア・シンセティック」と「フルヘッジ・ブル・シンセティック」は、セイジの「コンバージョン」と「リバーサル」の変形スプレッドとも言えるでしょう。