・「グリークス」はオプション取引必須のリスク指標
オプション取引では高度な数学が使われているために、最低限覚えなければならない数字があります。その一つが「グリークス」と言われるリスク指標群です。わたしを含め数学が苦手な人にとっては悲劇ですが、おカネを稼ぐため、いえ「ケガをしないため」だと思って潔くあきらめて習得しましょう。覚えてしまえば特に何ということはないものです。
本号から「超簡単に必須グリークを解説」と題し、連続シリーズで書いていきます。超簡単に書いていきますので、上級者の方には物足りない内容かもしれませんが、読み飛ばすなどしてご容赦いただければと思います。
(参考レポート:【動画】ざっくり解説シリーズ)
・変化率
50kmの道のりを1時間で走る車があります。この車がどのくらいのスピードで走っているのかを表す手段として、50km÷1時間=時速50km と、距離を時間で割る方法があります。これは距離を「変化量」、1時間を「1単位」として、1時間当たりに移動した距離を示してします。この変化の割合のことを、「変化率」といいます。
「変化率」から、物の動き方の傾向とリスクを知ることができます。例えば時速5kmで向かってくる車と、時速50kmで向かってくる車とでは、どちらの方が危険であるのか、そのリスクの大きさを比較判断することができます。
「変化率」はものが変化する割合のことです。上記の例では、「1時間」を「1単位」としていますが、「1単位」を「1分」とするのか、または「1秒」とするのかで値は全く違うものに変わってきます。
車は突然時速50kmで走り始めるわけではなく、最初の1秒間は時速1km、最初の1分間は時速10km、というように徐々に加速したものであったかもしれません。10分後から40分間は時速100kmで疾走し、その後に時速30kmまで減速したのかもしれません。つまり「変化率」とは、「1単位」に於ける平均速度を表しているに過ぎません。
・微分値
車のように速度が変化するものに対しては、短い時間や区間で計測しなければ、その瞬間の速度はわかりません。計測する時間や区間を長くすればするほど「変化率」は平均化されることから精度や信頼性は低下し、逆に計測する時間や区間を短くすればするほど、「変化率」は細分化されることから精度や信頼性は高くなります。正確性や信頼性を追求するために、より細かい単位で「変化率」を計測することを、「微分する」といいます。
「微分」した値、すなわち「微分値」は、その車の瞬間的な速度を表しているのと同時に、2つ以上の連続区間を計測することで加減速の傾向を知ることができます。加減速の傾向を知るということは、車は前進を続けているのか、またはバックで戻っているのか、進行方向も知ることができるということです。つまり「微分値」とは、「究極の変化率」を意味しているのです。
・偏微分
オプション価格は、原資産価格(先物価格)、権利行使価格(ストライク)、ボラティリティ、残存時間、安全利子率(無リスク金利)、原資産利回り(配当)の6つの変数から構成される関数です。オプションが満期を迎える1秒前まで、これらの変数がお互いに影響を及ぼし合うことで、オプション価格を変動させています。
オプション取引を実行し、ポジション管理を行っていく上で、これらの変数の「変化率」の大きさを知っておかなければなりません。このような複数の変数を持つ関数から、特定の変数の「変化率」を求める場合、他の変数を定数として「微分」することで値を求めます。これを特に「偏微分」といいます。
オプションの一般的なリスク指標は、ブラック・ショールズ方程式を「偏微分」した「変化率」で表されます。これが「デルタ」、「ガンマ」、「セータ」、「ベガ」といったオプション・リスク指標となります。
オプション・リスク指標は先の4つ以外に「ロー」、「ラムダ」、高次である「ボンマ(ボルガ)」「バンナ」「スピード」など書き出せばキリがないほどあります。これらのリスク指標は一般的にギリシャ文字で表されることから「ギリシャ指標」や「グリーク」(Greek)、または複数形で「グリークス」(Greeks)と呼ばれています。
・4つの基本グリークス
一般的な日経225オプショントレードの実践レベルでは「デルタ」、「ガンマ」、「セータ」、「ベガ」の4つの基本グリークスを押さえておけばまず問題ありません。それ以外のグリークスは、より精密な計算で特定のグリークスを狙い撃ちするときや、また商品設計など必要な人が必要に応じて使うと良いでしょう。
※注1「ガンマ」は基本グリークですが高次グリークスの一つとなります。
※注2「ベガ」だけはギリシャ文字ではありません。ベガをギリシャ文字のカッパと言う場合もあります。
「グリーク」は、オプションが内包している様々なリスクを表す値です。各要因がオプション価格に与える影響の大きさを表しており、単に運用成績の向上に必要不可欠な指標というだけでなく、ポジションを取る前からクローズするときまで、トレーダーが付き合っていかなければならない重要な指標です。
最初は「グリーク」を難しく感じてしまうかもしれません。しかしギルドで無料配布している「スマイルキャッチャー」に基本グリークスは既に実装済みなので、特に数学的な知識も必要ありません。トレーダーの仕事は計算することではなく、コンピューターから弾き出された各リスク指標の値を使い、トレードで結果を出すことなのです。
・大きなケガをしないために
オプションの各リスク指標を理解できないから、難解だから、敷居が高いからといって、これらを無視してオプション取引を実行することは、真っ暗闇の大きな部屋の中に飛び込み、手探りで出口を探しているようなものです。
「グリーク」はコンパスとロウソクです。「グリーク」を理解すれば、真っ暗闇の中でもロウソクを灯すことができます。ロウソクでは手元のコンパスと自分の足元くらいしか照らせないかもしれませんが、出口に向かうまでの道中に大きなケガをせずに済むでしょう。
それでは次号から4つの基本グリークスを見ていきましょう。
(次号へつづく)