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わたしは「インタビューとはいっても自然体で会話をすることが重要だから、普段どおりにリラックスした状態で臨んでもらいたい」と伝えた。彼はわかったと言いながらもなかなか緊張が解れないようだった。
・雑談形式に変更
このままではインタビューを断られてしまう事態にもなりかねないと感じると同時に、マーケットがオフのときまで余計な緊張を強いるのは、非常に申し訳ないという気持ちにもなった。トレーダーはマーケットから常に厳しいプレッシャーを受けているからだ。
誤解のないよう申し添えておくが、彼の緊張は怯えるような緊張のそれとは全く違う。トレードに対して全力で取り組むのと同じように、わたしのインタビューに対しても全身全霊で応えようとしていたのだ。
コミュニティに書き込まれる質問に対して回答をするときと同じように、今回のインタビューでもビギナーの読み手に理解してもらえるようベストアンサーで応えたい、いや、応えるのが自分の使命なのだと強く考えていたのである。
そこでわたしはインタビュー用に用意してきた原稿を無視し、軽い雑談形式で進行するよう急遽予定を変更した。最終的に今回のインタビューは4時間近くに及んだ。その内容をこれから記述していく。
・兼業トレーダー
■お年を教えてください。
□36歳です。
■ご結婚はされているのですか?
□ええ。
■本業は何をしてらっしゃるのですか?
□宝石・貴金属店の店舗責任者をやっております。
■責任のあるお仕事ですね。本業とトレードを両立させるのも大変ではないのですか?
□んーまぁそうですね。正直大変ではなりますが……でも……なんといいますか……そうですねぇ……。
■ちょっと待ってください。そんなに言葉を選ばなくても大丈夫ですよ。普段どおりでいきましょう。
□あはは(笑)。まぁ、仕事とトレードの両立は大変ですが、「夢」があるから頑張れるのだと思います。
■つまり苦だと思っていない?
□いや、体的には苦ですね。もっと寝る時間が欲しいです(笑)
■しかし、それを楽しんでいるようにも思えます。
□ええ、楽しいですよ。「夢」に一歩一歩近づいているのを実感しています。ただ誤解のないように申し上げると、本業のほうもトレードと差を付けることなく、全力で取り組んでいます。決してトレード優先、というわけではありません。よく本業を軽んじて疎かにするトレーダーがいますが、それは大きな間違いですね。兼業するのならどちらも全力で取り組まなくては。
■しかしマーケットは24時間動いています。本業も全力で取り組んでいるとは言っても、日中のマーケットは気にならないのですか?
□意地悪な質問ですね(笑)。もちろん気になりますよ。しかし自分にはあらかじめ決められたトレードルールがありますので、日中がどんな値動きであっても、トレードルールに従うだけです。だから本業に影響が出ることはありません。
・家族
■なるほど。トレードルールについては後ほど詳しくお伺いします。ところで、奥さまはあなたがトレードをしているのを知っているのですか?
□もちろん知っていますよ。
■あなたがここまでトレードに夢中になっていることも?
□ええ。
■奥さまや旦那さまに内緒でトレードをしているトレーダーがよくいますよね。
□家族に隠れてまともなトレードなどはできないでしょうね。トレードの準備もままならないはずです。また、家族に損失を隠し通すこともできません。健康的な精神状態で臨まなくては、ウマくいくものもいかなくなるでしょう。
■あなたの奥さまはトレードを賛成されてらっしゃいますか?
□あはは(笑)。どちらとも言えませんね。というのも、自分がトレードに夢中になっているために、家庭を疎かにしてしまっているのは否定できませんからね。例えば、休日の家族サービスですよ。それを考えると、彼女も手放しで賛成はしていないでしょう。
■わたしは結婚はしていませんが、良くわかります。
□ただ、彼女は僕の「夢」を良く理解してくれているので、応援はしてくれています。非常にありがたいことです。心から感謝しています。
■それは素晴らしいことです。私見ですが、トレードを応援してくれる女性はなかなかいないように思えます。
□だから僕はその気持ちに応えなければならないのです。絶対に。
■本当に羨ましいです。わたしもトレードを理解してくれる女性に巡り合いたいです。
□あなたの場合は女性とお付き合いしても、いつもトレードが原因でフラれてしまいますね。それは彼女のトレードに対する理解が足りなかったから、とあなたは言いますが、そうではありません。彼女にトレードを理解してもらうより先に、あなたが彼女を理解するよう努めるほうが良いでしょう。
■……。
□相場を知らない人に、ただ相場を理解せよと説いたところで、それは無理な話なのです。狭義ではなく、広義的なトレードというものを知ることです。そしてまずはあなたが彼女のことを理解してあげることです。もし一生を共にするほどの女性なら、いつかトレードのことも理解してくれるはずです。なぜなら、われわれにとってトレードとは自分の一部だからです。
■なるほど。がんばります。
□人は鏡だとよく言うではないですか。
(次号につづく)
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