(目次ページへ戻る)
■では話は変わります。オプション市場は仕組みの複雑さと見えにくいリスクが一体となってトレーダーはなかなか参加することができません。それでもトレーダーはもっと積極的にオプション市場を利用するべきだと思いますか?
□オプション市場はプロの市場で近寄りがたい独特の雰囲気を持っている。しかしオプションに精通すれば戦略の幅を何倍にも広げることができるから、スキルアップを目指すならオプションを活用しない理由はないと思う。
生活環境はスキルと主に非常に重要
■プロかプロに準じるスキルや生活環境のトレーダーでなければ、オプション取引は勝てませんか?
□生活環境はスキルと主に非常に重要だと思うよ。ザラ場に大変動した日に損切りができたのは仕事から帰ってきた夜、これではどれだけスキルが高くても意味がない。
■相場の変化に応じた俊敏な対応が求められますか?
□もちろんだよ。決して対応が後手に回ってはいけない。オプションは流動性も低いし、原資産価格の変化にとても敏感に反応する。とにかくオプション市場は最もエキサイティングなマーケットの一つなんだ。
大変動に巻き込まれてからオロオロするようでは手遅れになるよ。いつでもマーケットにアクセスできる環境でなければ、素早く臨機応変な対応を取ることなど当然にできないだろう?
■やはり専業トレーダーのようなトレード環境でないと厳しい、ということですね。
□専業かどうかは関係がないけれどリアルタイムのグリークスとスマイルカーブ、それとマーケットニュースが確認でき、ポジションがいつでもイジくれる環境ではないのなら、僕なら恐ろしくてオプション・トレードなどはとてもできないよ。
オプションのリスク管理は、原資産ポジションとは比較にならないほど複雑で、数理的要素も高い。原資産のポジションは原資産価格が上がるか下がるかの線形的なリスクとリターンだけ考えれば良いけれど、オプションはデルタ、ガンマ、セータ、ベガの最低でも4つのリスク指標がある。このうち無視できるグリークはセータだけだ。
特にファー・アウト・オブ・ザ・マネーのポジションには、大変動の局面に際してはベテランが自制心を持ってしても制御ができないほど高いレバレッジが効いている。このためにトレードで失敗したときには差し入れた証拠金を失うだけでは済まされないという事態になることもある。
トレーダー用語でいう「破産」は取引口座を吹き飛ばすことだけれども、オプション・トレードで言う破産は、人生を吹き飛ばすレベルの破産だよ。
■なぜセータだけは無視できるのですか?
□ガンマの裏返しがセータだからだよ。ガンマを把握していればセータは分かる。それに時間的価値の減衰、つまりタイムディケイは分かりきっていることで、変化率は変わっても時の流れる速さは変わらない。
ガンマが肥大化すればセータも同様に肥大化する。ガンマはデルタにダイレクト転換されてしまうので、相場の大変動に巻き込まれれば今まさに対応が必要な状況になり得る。しかしセータが肥大化したからと言って今すぐに対応すべき問題は起こらない。むしろその局面においてマーケットはポジティブ・ガンマが優位の相場となっており「セータは無視」される。
オプションのリスクはグリークスが示している
■環境はもちろんのこと知識やスキルを備えてからでないと、安易にオプション市場には参加するべきではない、と?
□オプションのリスクはグリークスが示している。「どんなスプレッドもグリークス次第」だということだよ。この意味が分からないのなら絶対的に参加するべきではないね。「いいんだ、僕は損をしながら生の相場で学ぶ覚悟なんだ」と言うのなら、それはもうその人の勝手だけどね。
ありがちなのは「○○スプレッドと△△スプレッドではどちらが有利ですか?どちらが良いですか?」という質問があるけれど、全くナンセンスだよ。これは読んだ教科書による影響だと思う。
同じスプレッドでも選ぶストライクや玉の比率によって合成グリークス、つまり取っているリスクの種類やサイズが全く違ってくるのだから「どんなスプレッドもグリークス次第なので比較はできませんね」としか答えられない。
■教科書を読んだだけでは十分とは言えませんね。
□そうだね。誤解をして欲しくないのは、単にオプション取引はリスクが大きい、危険だと考えるのは間違っていると思うんだ。リスクやリターンの大きさを決めるのは市場ではなくトレーダー自身、全てはトレーダーがマーケットで取る行動がそれを決めるんだ。
これはオプション取引に限らず先物でもFXでも株でも同じこと。マーケットはただフィールドを提供しているだけで、危険なのは準備が整っていない本人自身だよ。
■わかります。
□話を元に戻すけど少なくともトレード環境が万全ではない場合や、オプション取引について頭の中に「?」がある場合は、「安易にオプション取引には手を出さない方がいいと思う」とだけ言っておくよ。将来あなたのレポートを読んだ仲間の誰かがオプション取引で破滅したなんて話は聞きたくないからね。
さっきは「スキルアップを目指すならオプションを活用しない理由はない」と言ったけど、今度は正反対のことを言っていると読者の方は混乱しないかな?うまく言えなくて申し訳ないよ。
ともかく「こんなはずではなかった」などと後で言うことがないように、平時から自分がマーケットで何をしているのかよく知っておくこと、ということなのかな。それにオプション市場に限らず多くの場合は金融マーケットそのものに手を出すべきではないと心から思っているよ。
勝ち逃げできるのか未来は分からない
■しかしトレードに挑戦し、あなたのように成功するトレーダーもいます。
□オプションに限らず全てのマーケットは適者生存、勝てないのはマーケットから認められていないからだよ。一時的な「まぐれ」はあっても、ほんの少しで良いから他人よりも優位性を持っていないと長期的には生き残れずに淘汰されてしまう。
僕は今はこうして専業トレーダーとして飯を食っていけているけれど、ただの「現時点での成功例の一つ」に過ぎないんだ。その人がどんなにトレード・スキルが高くても、勝ち逃げできるのか未来は最後まで分からない。これがどういうことを意味しているのか、真意を汲み取って欲しいと思うよ。
■ありがとうございます。厳しい内容ですが、本音で話していただき感謝します。「誰でも・簡単・楽チン・すぐに儲かる」など甘い言葉が多い中、なかなか聞くことができないリアルな内容だと思います。ありがとうございます。
□僕もあなたとのオプション談義には、インタビューを忘れて熱くなってしまったよ(笑)さっき僕がやってきたことを答えたけど、まずは「シミュレーション・トレード」を繰り返すことをお勧めするよ。特に損益の出方が線形ではないオプション・トレードは、一筋縄ではいかない難しさがあるので、「シミュレーション」でクセを掴んでいくと良いと思うよ。
■少々長くなってしまいましたね。ではオプション取引に関する話題はここまでにして、インタビューを先に進ませていただこうと思います。
□OK。そうしよう。
(次号につづく)
以降、校正中。
(目次ページへ戻る)