(目次ページへ戻る)
■少し話は戻りますが、オプション取引で教科書や理論が通用しない具体例はどのようなものがありますか?
□例えばバタフライ・スプレッドの優位性だよ。「ロング・バタフライ・スプレッド」はサヤ取り的な見方もあるけど、理論的には無リスクで利益が取れる可能性を持ったスプレッド戦略だよね。
このポジションをクレジットで取った瞬間にその後のマーケットの動きに関わらず、トレーダーの利益は保証されるんだ。オプション理論を解説した本などでは、このスプレッド戦略の利益が保証される仕組みを解説している。
ところがこの「ロング・バタフライ・スプレッド」を組むためには、オプション市場で3つのポジションを取らなければならない。
ロング・バタフライ・スプレッドの優位性
■「ロング・バタフライ・スプレッド」のポジション構成は、ATM(アット・ザ・マネー)のロングが1単位、NTM(ニア・ザ・マネー)のショートが2単位、そして先の2つと同じ間隔のストライク(権利行使価格)のOTM(アウト・オブ・ザ・マネー)のロングを1単位、この3つのポジションということですね。
□そう。必ず1:2:1の建玉比率かつ等間隔、そして全て同じ日に満期となるポジションで構成しなくてはならない。この3つのポジションはデルタ・ニュートラルでプレミアムがクレジットである限り、その差分はトレーダーの最少利益として確定するわけだよね。
■クレジットである限り、原資産価格がどんな動きをしても損をするはずのないポジションなので、チャンスがあればトレーダーは許される限り何度でも仕掛けるべき、とされています。
□しかし、実際にオプション・ボードを見てみると、このポジションをクレジットで組むのは非常に困難だということがすぐにわかるよ。アルゴリズム売買も狙ってるし、クレジットで仕掛けるチャンスをなかなかくれないんだ。
そのうえ3つのポジションを同時に約定させなければならない。板に直接注文をぶつけない限り即時に約定させることはできないから、自分の希望価格で建玉するには相手が見つかるまで順番待ちをしなければならないんだ。
■日経225オプション市場では希望価格で注文が通るまで数時間、いや丸一日も待たさせることがあります。
□つまり、現実的に3つのポジションを同時に約定させることはできないんだよ。この3つのポジションと発注枚数が、個々にバラバラで時間差で約定してる間にマーケットは動くし、マーケットが動けば理論的優位性も変わってしまう。
仮に上手くポジションを取れたとしても、解消するときにもまた同じ悩みを抱えることになる。「ロング・バタフライ・スプレッド」なら満期SQ持ち込みが前提なので返済もことは考えなくても良いのだろうけど、そうもいかないスプレッドもある。教科書の解説によるオプション・スプレッドの優位性は、こういった流動性の問題を無視しているケースが多い。
■やはり実践ありき、ということですか?
□それは原資産市場のマーケット・ポジションでも同じだと思うよ。あるテクニカル手法が仮にも優位性があるとされていても、トレーダーがその優位性を再現できるかどうかは、自身で確かめなければならない。
ボラティリティの平均回帰特性
■先ほどの話に戻しますが、オプション取引に於いて最も重要な指標の一つにIVがあります。あなたも先ほど仰っていたように、ボラティリティは一般的に「高い・低い」「割高・割安」という表現を使います。
□うん、そうだね。
■しかしオプション取引を解説したある洋書では、ボラティリティに関してこの表現を使うのはトレーダーにとって危険だ、と指摘しています。それはいわゆる「値頃感」のような安易な感覚でボラティリティを扱うことに警告しているものです。なぜなら強い回帰特性を持っているボラティリティも「高くなったものは更に高くなる、安くなったものは更に安くなる」可能性があるからです。
□うん、完全に同意するよ。
■しかしそうは言いつつも、オプション取引ではIVを逆張り的に活用する手筋が圧倒的に多い印象です。あなたも先ほど「スマイルカーブでIV(インプライド・ボラティリティ)を見て、割高を売り、割安を買う」と仰っていました。これはなぜでしょうか?
□確かに原資産価格は短期的には回帰特性があり、長期になればなるほど回帰特性は薄れ平均値から乖離していく。つまりトレンドが出る、というのが現代金融工学の一般的な解釈だよね。
しかしHV(ヒストリカル・ボラティリティ)は短期的には乖離するが、時間を延ばすと最終的にはおおよその平均に回帰していく。IVの場合は更に変動が大きく、そして速い。IVは瞬間的に急騰し、その後すぐに急落、元どおりの水準に回帰するという特徴を持っている。一般的にボラティリティは絶対変化値ではなく、変化率で表わされるから尚更だよね。
オプションでは逆張り的手法が有効
■「ボラティリティはいずれ元の水準に落ち着く」という前提を元にしたオプション戦略は、原資産ポジションでトレンドフォロー戦略を主体としてきたわたしとしては少し違和感を感じるのです。
□オプション取引はボラティリティの取引だよ。オプションの買い戦略はボラティリティの買い戦略、オプションの売り戦略はボラティリティの売り戦略。つまりIVの瞬間的な急騰・急落を伴った強い平均回帰の特性を考えると、IVが低いときは買い戦略、IVが高いときは売り戦略、というような逆張り的手法が有効だという一般的な意見は、ほとんどのケースで理に適っていると思うよ。
ボラティリティに関しては原資産価格のように一方的なトレンドが出てネバーカムバック、ということは起きない。これはやり方次第で強力な優位性として活用できるんじゃないかな。
(次号につづく)
(目次ページへ戻る)