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・はじめに (※本レポートは2011年5月に書かれたものです)
このたびの東日本大震災により被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。また命を落とされた多くの方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
2011年(平成23年)東北地方太平洋沖地震(3月11日14時46分)に端を発した一連の災害と経済・金融混乱が続く中、できれば今回のレポートは書きたくありませんでした。
書きたくなかった理由は2点です。1つ目は、2ヶ月が経過した今もなお、被災された多くの方々が苦しんでおられるということ。そのことを考えると、当時の記憶を掘り返すことはわたし自身、とても苦痛です。震災をテーマとしたレポートを書くには、時期尚早ではないかと未だに疑問に思っています。
2つ目の理由は、わたし自身が日経平均オプションの口座を吹き飛ばしたからです。「破産は登竜門」などと面白おかしく言いますが、これはトレーダーとして恥ずべき汚点であり、事実もろとも布団の下にでも、できれば永久に隠しておきたいところです。
以上の理由で今回のレポートは書きたくもないし、配信もしたくないのですが、やっぱりわたしはどうしても書いて、配信をしなければなりません。
なぜなら、記憶が薄れないうちに書き、記憶ではなく記録として残し、わたし自身で大いに反省し、できれば読者の方々にも読んでいただき、今後の取引の糧として活かしていただきたいと切に願うからです。
相場術は失敗からしか学べません。失敗だけが相場の経験です。今回わたしが犯した(貴重な?)失敗を、ぜひ反面教師としてください。
・ブラックスワンはまた現れる
今回のレポートの舞台は、日経225平均先物市場と、日経平均オプション市場がメインとなります。しかしFXしかトレードされていない方も無関係な話ではありません。市場が違うから、株には興味がないからといって、決して他人事と無視しないでください。
どの市場も銘柄が異なるだけで、市場の本質は同じです。今回、日本の株式現物・先物・オプション市場に起きたことと同じことが、どの市場にも起こり得ます。いえ、これからも時が来れば繰り返し起こると、強く確信しています。
≪1987年に株式市場が暴落してから、アメリカのトレーダーの半分は、10月になるたびにまた暴落が起こるのではないかと身構える。でも最初の暴落には、もちろん前例なんてなかったのを彼らは忘れている。心配するのが遅すぎる。ドロナワ(泥縄)というやつだ。過去は典型的な未来を表現した一番信頼できる予測だなんて安直に思い込むからこそ、私たちには「黒い白鳥」がわからない≫
『ナシーム・ニコラス・タレブ』 ~ブラック・スワン~ (ダイヤモンド社)
わたしは今までにもFXで口座を吹き飛ばしたとこが(それも何度も)ありますが、オプション取引がメインとなってからは、そんなこともなくなりました。3.11までは。ナシーム・ニコラス・タレブの本は鞭です。口座を吹き飛ばして心身財布共に弱り切ったトレーダーに、「ホレみたことか」とせせら笑いながら更にキツく鞭を打つような残虐極まりない本です。
しかしこれからもポジションを取り続けるトレーダーは、未来に必ずや起こるであろう「突発的な(つまり予測不能な)事象」、そして「市場の大暴落」と、上手に付き合っていかなければなりません。「ブラックスワン」はまた現れます。
・ショートすることに気が咎めるか
未曽有の大災害の最中、ネットでは「震災ラッキー・儲かった・ヒャッホイ・買い〇ざまぁ」などと大量の草を生やしながら浮かれ踊るトレーダーを多く見かけました。
そのような行動や、前述のように「大暴落と上手に付き合う」、などと言うと「人の不幸に乗じて金儲けをするつもりか」とお叱りを受けそうです。
ここで「不幸な出来事」と「ポジション」について、わたしの考えと立場を述べさせていただこうと思います。
わたしは特に弁解をしません。上がっている相場は買い、下がっている相場は売ります。それがわたしの仕事です。2007年から2008年の世界金融危機もそうやってきました。世界金融危機は人災でした。人災でしたが多くの失業者や破産者が、不幸にも命を落としたはずです。ですがポジションを取りました。ユーロ、ポンド、ドルを証拠金ありったけに売りまくりました。(当時はFXをメインに取引していました)
では今回、2011年(平成23年)東北地方太平洋沖地震のケースではどうでしょうか。天災や事故やテロや事件などで金儲けを考えるのはトレーダーとして間違いでしょうか。間違いかもしれません。仮に上手く儲けたところでそのときは罪悪感に苛まれるに違いありません。手放しではしゃぐことなどはできないはずです。ああ、今回のわたしはどちらかというと儲けた側ではなく、口座を吹き飛ばしてしまった側ですが。
わたしは「人の不幸に乗じて金儲けを考えるな」とは言いません。わたしはトレーダーなのです。残念ながらトレーダーたるもの、市場のチャンスは最大限に利用するものです。人の不幸を伴わない市場変動などは存在しません。どんな事情があろうとも、動いてしまえばそれが相場。トレーダーがトレードを否定することはできません。
しかし市場のチャンスを利用して稼ぐと決めた際には、取ったポジションの裏には多くの不幸があることを認め、五感すべてで彼らの叫びや痛みを感じ取り、自分や家族の望む豊かな未来のためにも、涙を殺してポジションを取る。
マーケットは皆でハッピーになることなどできない世界なのだから、もし誰からも恨みなど買いたくない、真に善良な人間になりたいと願うのなら、そもそもポジションなどは取るな。もしかしたら、そういうことなのではないでしょうか。
・マーケットの参加目的は「カネ」
勝っても負けても、むしろ勝った方こそ、なぜか時に悲しく心満たされないのがマーケットです。このおかしな感覚は、ある程度の経験をしてきたトレーダーなら少なからず共有できる感覚ではないでしょうか。マーケットの参加目的は「勝つこと=カネを稼ぐこと」、しかしマーケットでこれを達成したからといって、もしかしたら満たされることはないのかもしれません。
我々が日々赴いているマーケットとは、多くの参加者にとっては神聖な場所ですが、逆に薄汚く、そして狡い場所でもあります。倫理や正論が通用するような聖地ではありません。秩序はありますが、混沌ともしています。マーケットは吹き溜まりではありませんが、正直、吹き溜まりだと感じることもあります。市場にはキタナイ「カネ」も入ってきます。それでも市場に流れればキレイもキタナイもなく、等しく「カネ」です。
わたしもカネカネしたくないのは山々ですが、わたしのマーケットの参加目的は、やっぱり最後は「カネ」です。それは生活のため、メシのためでもあります。
人災であろうと天災であろうと、マーケットで「カネ儲け」を企むのに、儲けたい人は儲ければいいし、自粛したい人は自粛すればいい、ここはマーケットだ、ただそれだけです。そこに詭弁を語り、行動の理由をあえて付け加える必要などはないと思うのです。
(次号につづく)
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