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■その点(精神面)では、兼業トレーダーの方が圧倒的に有利ということですね。
□そうだね。しかし兼業トレーダーには負けても翌月には収入が入ってくる、生活までは脅かされないという余裕がある分、「真剣」さにも隙ができるのは間違いないだろうね。本業の収入が別にあるなら必ずしも相場で利益を上げなければならないわけではないし、技術の習得に時間的な余裕もある。
致命傷はスタートから3ヶ月後
■わかります。
□ただそれは良し悪しの話ではないんだ。マーケットに参加する理由や目的は人それぞれということだと思うよ。兼業トレーダーであることは有利な点もたくさんある。勝ち負けの問題ではなくただ投資を楽しめれば満足という参加者もいる。
やりたい人がやりたいように自由にやればいいのがマーケットだ。誰に強制されてるわけでもなく本人の意思で勝手にやっていることなので、それに対して他人さまにとやかく言うことはできないし、とやかく言われる筋合いもないだろう。誰でも望むスタンスで参加することができるのは相場の良いところだね。
■わたしも完全に同意します。
□話を元に戻すと、まぁそんな感じで僕の場合はサラリーマンのような定期的な収入がなくなって、口座の中の命銭が減っていく恐さを空想の中ではなく、真に味わったんだ。
それはマーケットでの冷静な判断力を鈍らせるだけではなく、日常から健全な精神をも蝕んでいくんだ。徐々に心が荒んでいく自分に気が付いたよ。僕は専業トレーダーになって初月からそんな感じだった。
■スタートしてから2ヶ月目以降は、どうだったのですか?
□致命傷はスタートから3ヶ月後のゴールデンウィークくらいかな。僕は勝てない恐怖とドローダウンの恐怖に心が犯されていて、完全に焦っていたんだ。
なぜ焦るかわかるでしょ?資金を食って(減らして)しまっていることが原因でトレードが上手くいっていないと自分で分かっていても、資金に余裕のない専業トレーダーはトレードを休むことができないんだ。
トレードをストップしてしまっては確実に食って行けなくなるから、苦しくてもトレードを続けなければならないという、強迫観念を持ってしまうんだ。
負けたら勝つまでやり続けるしか道はない
■「休むも相場」などという甘い教えは通用しないと?
□通用しないね、全く。駆け出しの専業トレーダーに選択肢は与えられないんだ。原資に余裕がないのなら、負けたらもはや勝つまでやり続けるしか道はないんだよ。
■では「相場は余裕資金でやるべき」という意見についてはいかがですか?
余裕資金でやろうが命銭でやろうが、僕の場合は同じ運命を辿っただろうね。いずれにしても資金を枯渇させるまでは心を入れ替えなかっただろう。結果は同じだよ。
□それで3ヶ月後の致命傷とは?
■そうそう。そんなときにmixi株(株式会社ミクシィー東証マザーズ2121)を※「ナニコレ安い」で買ったんだ。上手くいったよ。あっさり3万円くらい儲かったかな。厳しいドローダウンの中だったから僕はうれしかったよ。
スーパーなどで特売品を安いと感じるように値頃感で安いと感じること。初心者的発想による安易な逆張りトレードを揶揄した言い方。
■続きに何かありそうですね。
□翌日さらに下げてきたところを、同じように買ったんだ。そうしたら驚いたことに、mixi株は勢いよく下げ出した。僕は「ここは勝負だ」と思いナンピンをした。すると信じられるかい?直後にmixi株はストップ安まで叩き売られた。
■損切りしたくても叶わないのですね。
□そう。血の気が引くとはまさにあのことだ。アゲインスト(評価損)のポジションを抱えたまま、逃げるにも逃げられないんだ。ストップ安に張り付いたmixi株は、もはや板がないのだからね。凄まじい恐怖を味わった対価として僕は一つ学んだ。それは「自分は何一つ分かっていなかった」ということ。
■最終的によく損切りできましたね。
□結局、翌日さらに寄り付きギャップダウンしたところをブン投げたよ。そのトレードだけで一気に30万円ほど持って行かれた。椅子から崩れ落ち、力なく床に横たわったまま大泣きした。その時の絶望感は決して忘れないよ。
自分の愚かさや甘さ、またド素人加減に強いショックを受けたし実損も大きかった。あまりにも衝撃的な負け方だったので、しばらくは立ち直ることができなかった。
■なるほど。
□mixi株の損を全て確定させたときの僕の口座残高は100万円になっていた。だから当初の僕の専業トレーダー計画は、脆くも3ヶ月目には完全に破綻してしまったんだ。
僕はマーケットに対して初めて真剣になった
■それからどうしたのです?
□現物株の売買をあきらめたよ。僕はサラリーマン時代の勝ちなんて単に偶然だったということに、とっくに気が付いていたんだ。それでも原資をドローダウンさせてしまっていたから、一旦の様子見をできるような余裕のある精神状態ではなかったんだ。
以前は225銘柄の大型株しかやってなかったのに、いつの間にかmixi株のように値動きの荒い新興市場にも手を出していたんだ。でもさすがにmixi株の大負けで目が覚めた。
■早くも資金を50%もドローダウンさせてしまっていては、普通なら挫折してもおかしくない状況です。よく専業トレードを続ける気になりましたね。
□続けるも何もないよ。会社も辞めてしまってもう後はないと思っていたから、ここでトレードを辞めようという発想は出てこなかった。ちょっと余裕のあった半年分の生活費150万が救いだった。
■しかし原資残はあまりにも心細いでしょう。
□そうなんだ。生活費を別に避けていると言っても、このままでは破綻は時間の問題だった。だからそれからは少しでも生活の足しにしようと、※イブニングセッションの後に夜間のアルバイトを始めたんだ。こんな後がない危機的状況に追い込まれて、僕はマーケットに対して初めて「真剣」になった。
※夜間のアルバイト
「KEN」氏は当時のアルバイトの様子を詳細に語ってくれたが、レポートの推敲段階に於いて本人から「前置きが冗長なのでは」、とのご指摘をいただいた。じり貧の専業トレーダーの心中を知る上で非常に重要な内容ではあったが本稿からは丸ごと削除し、削除部分はスピンオフとすることにした。
※イブニングセッション
現在のナイトセッションのこと。当時は夜間取引の大引けは20:00、その後に23:30まで延長となった。夕場とも言われた。
(次号につづく)
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