市況コメントなどを読んでいると、「110.50に東京カットのノックアウト・オプションのバリアがあり、防戦買いが出た」など、「ノックアウト・オプション」という言葉が登場することがあります。「ノックアウト・オプション」とはどのようなオプションなのでしょうか。
・「スタンダード・オプション」と「エキゾチック・オプション」
一般的にオプション取引というと、「スタンダード・オプション」のことを指します。「スタンダード・オプション」は、「プレーン・オプション」「バニラ・オプション」「プレーン・バニラ」などと呼ばれ、いかにも「スタンダード」そうな名前です。
「スタンダード・オプション」以外のオプションのことを、「エキゾチック・オプション」と言います。金融工学の発展により、実に多くの「エキゾチック・オプション」が開発されており、その数は数百種に及ぶと言われています。その多くが店頭相対取引(オーバー・ザ・カウンター=OTC取引)で行われています。それぞれの商品を個別にネーミングしているため、同じタイプのオプションでも名前が異なることが多々あります。
・オプションバリア
さて、この市況コメントなどでよく見かける「ノックアウト・オプション」は、エキゾチック・オプションの中でも、最もよく使われるオプションの一つです。
「ノックアウト・オプション」とは、OTMの状態から原資産価格が事前に設定された消滅価格に達した瞬間に権利消滅(ノックアウト)するオプションのことで、コールのことを「ダウン・アンド・アウト・コール」、プットのことを「アップ・アンド・アウト・プット」と言い、消滅価格のことを「オプション・バリア」と言います。
満期までに原資産価格が一度でも「オプション・バリア」に達すると、その瞬間に「ノックアウト・オプション」の権利は消滅します。「スタンダード・オプション」に比べて満期前にオプションが消滅する可能性がある分、当然プレミアムは割安となっています。
また「スタンダード・オプション」はボラティリティが高くなるとプレミアムも高くなりますが、「ノックアウト・オプション」はボラティリティが高くなるとノックアウトされる可能性も高くなりますので、プレミアムは逆に安くなることさえあります。
・オプションバリアは激戦地
「110.50に東京カットのノックアウト・オプションのバリアがあり、防戦買いが出た」というコメントは、東京カットの15:00を満期としたノックアウト・オプションの買い手が、オプション・バリアである110.50にヒットしないように15:00までドル買い介入を行ってレートを支えていた、ということを言っています。
逆にノックアウト・オプションの売り手は110.50をヒットさせて、このオプションを消滅させるためにドル円を売り込む立場にある、ということになります。
15:00までに110.50をワンタッチするかしないかは、ドル円の持ち高が発生するかしないか、デルタで言ってみればゼロか100かの差があります。これはオプション・ポジションを抱えるものにとって、原資産市場で介入を行わなくてならないほど重要な問題なのです。
一般的に東京カットは日本時間15:00、NYカットはNY時間の10:00となっており、権利行使価格(ストライク)やオプション・バリアは大抵50銭刻みとなっていることから、ドル円レートはこの満期となる時間に向けてX.50、またはチョード(X.00)に吸い寄せられる傾向があります。
・ロスカットに備えた安い保険
ノックアウト・オプションの対となる商品に、「ノックイン・オプション」というのもあります。これはOTMの状態から原資産価格が事前に設定された発生価格に達した瞬間に権利が発生するオプションのことです。
これら「ノックアウト・オプション」や「ノックイン・オプション」は、「スタンダード・オプション」と比べて安価であることから、スポットや先物ポジションがストップロス(ロスカット)されることに備えた「安い保険」的な役割を担っており、こと安定運用を望む運用者にとって重要なオプションの一つとなっています。