古い相場の本を読んでいると、まったく様々な賭け方があるのだなぁと、先人たちの残してくれた知恵に驚かされます。同時に彼らの相場に対する探究心の深さと、その献身さには感服します。
サイラス・ハッチ(1821-1890)は、ジェシー・リバモア(1877-1940)の2世代前に生きたアメリカの株式相場師です。彼は相場史に「ハッチの法則」という手法を残しました。
自身は「ハッチの法則」を編み出した後、その法則で50年間運用を続け、巨額の利益を残したと伝えられています。
・トレンドフォロー
伝説というものは美化して伝えられるものですがそういう話はさておき、ハッチを賞賛するに値するのは「50年間、同じ手法を使い続けた」ということだと思います。
ハッチの法則による手法はいわゆるトレンドフォローの一種であることから、恐らく低勝率でありドローダウンの谷は厳しく、その期間も長かったことが容易に想像できます。
システムトレードの心得がある方にとって「低勝率・高ペイオフレシオ」であるトレンドフォロー運用の苦しさ・難しさは、ここで言うまでもないでしょう。たった数ヶ月の運用ですら、激しい感情の起伏を伴い、タイミングが悪ければ資金も大きく減ります。
・1つの指標と長く付き合う
1つの指標と長く付き合っていると、指標のクセが見えてきます。指標のクセを掴むと、それらを基に売買ルールを構築することができます。
売買ルールを組むとそこから更に長所を伸ばし短所は抑えるよう、手法の工夫が生まれます。手法の改良を掘り下げ進むと、それは最終的に資金管理(ポジション・サイジング)へと辿り着くことになります。
これはハッチを成功へと導いた一つのカギだったと言えるでしょう。1つの信念を貫き通せるトレーダーは、どんなマーケット博士よりも信用できます。
会うたびにトレード基準を色々な指標に変えているテクニカル博士な方もいます。アレが良さそうだと言った翌週には、コレが良さそうだと。これではいけません。
・古典的手法は使えない
ところでこの「ハッチの法則」。実は酒田の本間さまや、三猿の牛田権三郎さまにも同じようなトレンドフォロー手法の記録が残されています。
100年も200年も前の古典的手法は、現代の市場には通用しないと言う人もいます。時代が違えば、エコノミーもスケールもマーケットルールも大きく違うのは確かですが、さてどうでしょう。「古典的手法は使えない」、果たしてそう言い切れるでしょうか。
HFT(高頻度取引)やHST(高速取引)が台頭する昨今ですが、アルゴリズム取引であろうと生身の人間であろうと、今も昔もこれからもマーケットを突き動かしている「モノ」は不変です。50年間1つの指標と付き合うと、付き合った人しか見えない何かが、きっとこのマーケットに見えてくるのでしょう。